皆伝を取るまで 小指事件~中伝後期(リハビリ期)

小指事件~中伝後期(リハビリ期)

皆伝を取れ——直接的ではなかったが、味噌ラーメンを食べながら交わした会話の中に、明確に私に対して向けられたフレーズがあったのは今でも覚えている。

 

私が通うゲーセンに、同様の意思を持って頻繁に訪れる男たちがいた。文明の利器であるインターネットは彼らを結んで、さらにその結び目に名前をつけた。前述の会話の発端はそこにあるのである。

 

皆伝など取れるわけがない。であるならばせめて自分の好きな曲だけをプレイしていようとした私の考えは変わり、改めてこのbeatmania IIDXというゲームにおける私の根源を探してみる。先に繰り返すが、それは単に皆伝という金色の文字をDJ NAMEの下に刻むことであった。一度諦めたはずの夢だが、諦められていなかったのか、それとも皆伝を取れるという自信が内にあったのかどうかは定かではないものの、再びそれを目指す事にした。

 

復帰して間もないころのプレイングは散々なものだ。☆9 獅子霞麗ノ舞 SP ANOTHERHARD CLEARはなんとかできたが死にかけ、45年前にHARD CLEARしていた☆10 AA SP HYPEREASYで落とすレベルにまでなっていた。また年単位のブランクは非常に大きく私にのしかかり、同時に私の立っていた場所を明確に示した。

 

この時私が意識していたのは、1stFINAL STAGEでいきなり難しい譜面に触れるのではなく、運指を固定することによって生まれる手の感覚や、皿が降ってきた時の手の動かし方を思い出すことだった。そうやって低難易度からやっていき、EXTRA STAGEではそれより前にプレイした譜面より少しだけ難しい譜面に挑戦するのだ。

 

これはどうやら正解だったらしい。

というのも、復帰して1ヶ月も経たない内に、以前は逆立ちしても手の及ばなかった曲に手が伸びた。

 

 

 

特にBITTER CHOCOLATE STRIKER SP ANOTHERは、☆12においてお菓子としてまとめられることの多い3曲のひとつであるが、縦連と皿複合が苦手な私を容赦無く嬲った。小指事件が起きるまでにColorful Cookie SP ANOTHERと不沈艦CANDY SP ANOTHERHARD CLEARできていたのだが、この曲は何度やってもそれが成し遂げられなかった。

 

この瞬間––BITTER CHOCOLATE STRIKERHARDランプが点灯した瞬間––私は皆伝になることができる、その素質があると確信したのであった。これを機に私の地力の伸びは明らかに加速し、翌月には1年というブランクを無に帰すことができた。